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旅をする本というドキュメンタリー番組で星野道夫さんのことを知った。
星野さんの文庫本を旅人が次々に渡していくのだ。
その行程が裏表紙に書き込まれている。
地球を何周も回り、今も世界のどこかに存在する。

わたしもさっそく図書館で借りてきた。
落書き禁止だからもちろん書き込めないけれどこの本も名古屋市内の家を旅しているんだなあと思う。

星野さんは生きていれば団塊の世代。
あとがきによると熊に襲われて亡くなったそうだ。
もしその時熊と遭遇しなければと想いもするけれど人生は偶然の連続だ。

先日ランチをしたお友達が自分よりも若い友達が突然亡くなったけれどそれはちっとも理不尽なことではなくむしろよく生きたねと褒めてあげたい気分なのとつぶやいた。
そのころ旅をする木を読んでいたわたしははっと納得できた。
よく生きたねって言われる人生をわたしも目指したい。

旅をする木の章が好きだ。
早春のある日、一羽のイスカがトウヒの木に止まり、ついばみながら落としてしまうトウヒの種子の物語。
偶然を経て川沿いの森に根付いた種子はいつしか一本の大木に成長する。
長い年月の中で川は浸食されある春の雪解けの洪水にさらわれた大木は川から海へと運ばれて海流に乗り木のない海岸にたどり着く。
一匹のキツネがその流木に匂いをつけ、そこにヒトがわなを仕掛ける。
トウヒの木は薪ストーブにくべられるのだが、燃え尽きた大気の中からまた新たな旅が始まる。

まるでその流木こそがこの本だ。
星野さんの旅を時を経て読んでいる。