国境を越えるカーステレオから。
瓦礫の街で。
あの日のように抱きしめて」くれることが叶わないと悟り歌う。

腕に刻印された数字は消すことができない。
ただ愛を信じたかったのだ。
真っ赤な口紅に真っ赤なドレスで最高にきれいな自分を演じた女。
親友を失いそれでも「スピーク・ロウ」が希望になってくれれば・・・。


便座が上がっていた。
家人は座り派なので便座裏を見ることはめったにない。
ついでに拭き掃除をしながらつかの間の母に戻る。

嵐の夜に息子が帰省し、あわただしく風のように戻って行った。
就職して五年。
ほろ酔いの夜道、自分が定まっていないから守るべきものはまだかなとつぶやいた。
いい人たちに支えられてるからと息子は言う。
「行ってらっしゃい。」と心の中で抱きしめた。