おっぱいも暴力もない園監督の作品。
心が痛かった。

「お家に帰ろうよ。」
そう認知症の妻は言う。
「あと十分したら帰ろう。
長い針が6の所にきたらね。」
それで妻は安心する。

入院中だった義父もよく家に帰ろうと言った。
「そうだね。あと十分したらね。」そう言って安心させてあげればよかった。
家に連れて帰っても家に帰ろうを繰り返した。
「ここがお家だよ。」そう言い続けたわたしはなんて残酷だったんだろう。
車椅子で散歩に連れ出しても混乱するばかりだったのに。

時間を失くした人に帰る家はない。
妻が望むのは原発のできる前の家なのか。
テレビで繰り返される水素爆発。
「原発できたの?」

強制退避の黄色い境界線は国が決めたもの。
何も解決していないのに再稼動も国が決めたこと。
なかったことにすることができる人たちが希望の国を先導している。

原発事故によって引き裂かれた家族の物語。
そして愛する人を守りたいと願う家族の物語でもある。


若松監督も原発事故の映画を撮る予定だったという。
不条理と闘う映画が観たかった。