「今度の震災どんな気持ちで受け止めた?」

お盆に実家に帰ってきた弟と会った。
弟は神戸在住で震災に遭遇している。
当時幼稚園児だった甥と姪は大学生だ。
時の流れを感じる。

「中越の地震の時の方が我が事のように感じたかな。
東北のは規模が違いすぎるよ。
地震だけならともかく津波に原発だから。
でも経済損失は神戸と同じぐらいなんだって。」


この女はそんな神戸の震災前の出来事。
この物語がこの時期に書き下ろされたことの意味を考えてしまう。

廃墟となってしまった街で生と死に隣り合わせそこから立ち上がった神戸の人。
福島の人はその土地で立ち上がることも許されない。
喪失感、恐怖感、後悔・・・。
その理不尽さに寄り添うなら経済や国策よりも自然の脅威にひれ伏して過ちを繰り返さないことを教訓として思い続けるしかない。

この女はこの男の物語でもある。
共通するのは釜での貧困生活。
どうすることも出来ないハンディー。
でもそれに見合う特技。
ひらひら生きているようであってもそれぞれのしたたかな回復力が幸せになるためには必要。
自分の欲しいものは自分で手に入れようとするヒロイン。
この女は爪をみがく。
磨かれた釜の男たちはそこだけが恥ずかしげに輝いている。


先日一本のマニキュアを買った。
仕事柄あんまり感心されないけどさりげなく塗ってみたくなった。
まるで校則違反のスリルを楽しむ女子高生みたいだ。
シルバーパールが光る指先を見ながらちょっとわくわくする。
二度塗りしてみたらいい感じだ。
来年の夏はとんでもない色を買ってペディキュアをしてみよう。
うんとラメ入りもいいかも。
OPIR58


未来はみえない。
今日の積み重ねでしかない。

森 絵都 著