「彼女いたのかな?」

わたしはどうしてもそれがひっかかっていた。
大切な人がいたら置いてきぼりなんてしないはずだから。

「いない、いない。
俺は部屋にもいったことあるんだ。」

「一緒に暮らしてなかったらわかんないじゃん。」

「それがさあ、エロビデオもあったんだぞ。
その行方が気になってな。
その人がいないのにそれだけ残るってなんだかな。」

「もらっとけばよかったね。」

「そうしたら隠し場所が気になって今度は俺がうかうかと逝けん。」

「うかうかと逝けんかったらよかったのに・・・。」

その人が描いた看板のある隠れ家。
カウンターで焼酎の水割りを飲みながらわたしは結論の出ない会話をエンドレスで繰り返す。
きっとこれからも。

階下に降りていくとそこから夜の川が見える。

「窓開けてもいい。」

「いいけど引っ張られんなよ。」

堀川は江戸時代に人工的に作られた川。
学生の頃は汚くて臭いイメージしかなかったけれど納屋橋界隈は今はこうしてこじゃれたお店ができたり、堀川下りなんてのもあるらしい。

冷房で冷え切った体に夜風が気持ちいい。
その人はどんな気持ちで時々ふらっとやってきてこの川を眺めていたんだろう。

もうすぐ夏が終わる。

♪Septemberそしてあなたは
 September秋に変わった
 私ひとりが傷つくことが残されたやさしさね

竹内まりやのセフテンバーをそっと口ずさんだ。