言えば切れる男。
切れる男の上を行くには冷静ではいけない。
血圧が上がりすぎて朦朧とするぐらい。
おとなしい飼い犬に突然噛まれたように。
執念深い女。
すぐに忘れる男。
何事もなかったかのようにまた調子にのるんだろうな。
85歳の父にもう運転をさせたくない。
週に一度車で実家に泊まりで行きたいと言ってみた。
「俺の銭湯はどするんだ。」
「電車で行って実家の車を使えばいいだろ。」
「車の維持費はお前が払え。」
言いたいことはそれだけですかと反撃に出た。
「わたしはお義父さんお義母さんの病院にも泊り込んで介護をしてきたよ。
それが出来たのは母が子供たちの面倒をみてくれたからでしょ。
今度はわたしの両親が高齢になって一晩だけ銭湯に行くのを我慢して欲しいって言ってるだけだよ。」
もちろん男は自分の予定があるときはちゃんと家のお風呂に入っている。
「カビだらけのお風呂によく平気で入れるな。」
「換気扇をつけると怒鳴るからでしょ。」
「節約は大事だ。
じゃあ今度から電気代はお前が払え。」
「わたしはね、この家でびくびく暮らしてるの。
怒鳴られないように普段は何も言わないようにしてるの。
だけど家族の大変なときに銭湯銭湯って情けない。」
男の言い訳はどこかずれている。
「俺は言われんとわからんのだ。」
「ずっと黙っていて突然わめかれても困る。」
それではと
「週一回車を使わせてください。
換気扇を使わせてください。
冷蔵庫の賞費期限切れを処分させてください。
寒いのでヒーターを出させてください。」
一気に言ってみた。
「黙って実家に行かないで欲しい。
お風呂掃除をしてくださいと言って欲しい。
ヒーターを出してください、片付けてくださいと言って欲しい。
冷蔵庫はちょっとだけ考えさせて欲しい。」
ちょっとかわいく思えてきた。
本当に言わないとわからなかったんだ。
その後男はお風呂掃除を始めヒーターを出しおぜんざいを作り始めた。
「お風呂ぴかぴかにしてくれてありがとう。
あったかいリビングにしてくれてありがとう。」
おぜんざいが出来たらこう言うに違いない。
「お店で食べたら五百円はする。
そして俺が作った方が旨い。」
きっと男の鼻の穴は広がっている。
「夫婦に無償の愛なんて注げない。
元々は他人なのだから。
意思が無きゃ続かないのは仕事も家庭も同じ。」
逃げ恥のみくりのお母さんの言葉。
意思を持って仕事も家庭もお山も目指そう。